【田中康夫と浅田彰の憂国呆談シーズン2 第58回抜粋】 福島原発の汚染水流出・日本人のナルシシズム
田中 偽装米を販売しただけで逮捕されるのに、東京電力福島第1原子力発電所の建屋の屋根から排水路を通じて高濃度汚染水が外洋に流出しているのを把握しながら1年近くも隠蔽していたのがお咎め無しとは、法治国家とは呼べないよ。
浅田 バレないと思ってること自体が信じられない。僕が担当者だったら責任逃れのためにすぐ発表するな。正しい戦況を伝えない大本営発表と同じ。だいたい首相がIOC総会で「アンダー・コントロール」(コントロールされてる)って公言しちゃったわけだし(苦笑)。
田中 「人生いろいろ」だと、うそぶいていた小泉純一郎に「政府は嘘を言っている」と吠える機会を与えてしまった。年度内に完了すると公言していた汚染水の処理は一向に終わらず、アウト・オブ・コントロールなわけだ。実はアンダー・コントロールされているのは原発でなく、国民だったと。法治国家がすべてを放置する“放置国家”となり、さらには“呆痴国家”になっている。メディアも“鈍感力”を発揮しているし、その状況に怒りもしない国民の民度は“眠度”と表記を改めるべきかも知れない。
浅田 汚染水を凍土壁で遮る計画にしても、水が凍らないから大量に氷を入れたっていうから苦笑するほかない。それがまたすべて汚染水になるわけだよ。そんなの空想的なアーティストの妄想みたいだって言ったら、「今どきのアーティストはもっとちゃんとフィージビリティ・スタディをやる」ってアーティストに叱られた(笑)。
そもそも震災から4年もたってまだ被災者が仮設住宅に住んでるってどういうこと? 田中さんが前から言ってるように、福島原発周辺にはもう住めないんだから、中間処分場とか言って誤魔化さず、そこに最終処分場を設けるしかない。代わりに、そこに暮らしてた住民の集団移住を強力にサポートする。ソ連がチェルノブイリ周辺の住民を強制的に移住させた、それは独裁国家ならではの強引な手法だけど、いつか故郷に帰還できるかのように言って具体的な将来設計もなく生殺しにするのは、それより残酷だよ。
田中 除洗は移染に過ぎないのだから、フクイチ周辺30km圏内は「放射能に占領された領土」だと冷静冷徹に認識し、閑古鳥が鳴くゴルフ場を始めとする遊休地に「新しい村」を造営すべきと「3・11」直後から提案していたんだけどね(涙)。4年を経て、フクイチ周辺4町(富岡・大熊・双葉・浪江)の避難住民で「戻りたい」と帰還を希望するのは1割台に留まると復興庁の調査で判明した。それは帰還困難区域だけでなく、居住制限、避難指示解除準備の区域を含めての数値。
他方で岩手・宮城被災2県に限っても3万6079戸の仮設住宅の撤去は震災5年の来年2016年3月末でも全体の10%に留まると発表された。同じく5年で4万8300戸の仮設住宅が全撤去された阪神・淡路大震災とは雲泥の差。福島県の1万6800戸に関しては撤去の目途すら発表し得ぬ状況だ。
他方で通算10年間の復興予算は30兆円を超えると政府は見込んでいる。仮に23万人の避難者に1人5千万円を渡しても、その3分の1の11兆円。家族4人で2億円。これで衣食住ならぬ「意職住」の仕事と住居を整えて、意欲を持って新天地で再スタートを切るべく支援した方が遙かに短期間に裾野の広い経済効果も見込める。なのに、そうはならない。最初は全員反対だったダム建設予定地の住民が次第に諦めてしまうのと同じで、時間をかけて諦めさせる手法は行政の常套手段なんだよ。実は数値が全ての新自由主義は社会主義でもあるんだから、チェルノブイリ事故の際に住民を強制移住させたソビエトに学ぶべきでしょ。
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